乳がんは個人差が大きく、同じ治療法をおこなっても効果や副作用に差が出ることがあります*。そのため、従来から薬剤療法選択の際に用いられてきた因子(年齢やがんの大きさ、リンパ節転移の有無、ホルモン受容体やHER2の状態、がんの悪性度など)のみを使用した場合、がんの再発リスクやがんに化学療法が効くかどうかを予測することは容易ではなく、ホルモン療法だけでよいか、化学療法を加える必要があるかの判断も困難でした。近年、多遺伝子検査(多遺伝子アッセイ)が導入されたことにより、こうした状況が改善され、個々の乳がん患者さんごとにより適した治療計画を立てることが可能になりつつあります。
●遺伝子検査(多遺伝子アッセイ)とは
乳がん患者さんに行われるようになった多遺伝子アッセイは、患者さん一人ひとりの乳がんの性質をより詳しく知るため、乳がん細胞にある多数の遺伝子の発現状況や活性度を調べる検査です。針生検や手術で摘出された乳がん組織に含まれる複数の遺伝子発現状況を解析することにより、将来の再発リスクを予測したり、検査によっては術後化学療法の効果を予測するのにも役立ちます。多遺伝子アッセイにはいくつかの種類があります。担当医師と相談のうえ、自分に適した検査を選択しましょう。
●検査によって可能になること
多遺伝子アッセイは、患者さんと医師が治療計画を立てるときの意思決定を助けます。多遺伝子アッセイにより、個々の患者さんの再発リスクや、検査によっては術後化学療法の効果予測を補助するため、一人ひとりの患者さんに応じた、より最適な治療計画を立てることが可能になります。それにより、患者さんが納得して治療を受けることにもつながります。多遺伝子アッセイで、術後化学療法の効果が低いと判定された場合、術後化学療法を省略することにより、副作用の回避、医療費削減が可能になります。また、再発リスクが高いと判定された場合には、適切な術後治療を行うことにより、再発リスクを減らせる可能性があります。こうしたことから、多遺伝子アッセイは標準治療の一環として行われるようになってきています。
*参考情報: 国立がん研究センター がん情報サービス 診断と治療 薬物療法