● シェアードデシジョンメーキングとは
医療において重要な決定をするとき、患者さんも医療従事者も悩むことがあります。とりわけ難しいのは、複数の治療方針の選択肢の中から治療方法を選択する場合です。がんの治療では、手術療法、化学療法や放射線療法がありますし、手術療法には従来の手術だけでなく内視鏡を用いた手術もあります。複数の治療方針があり、生命予後や生活、QOL(クオリティオブライフ) に与える影響が異なる場合、どれがよい治療方針かを決めることは容易ではありません。また、一人ひとりの患者さんはそれぞれ異なる背景をもっており、ある患者さんと同じ患者さんは一人としていません。そこで、近年、一人ひとりの患者さんにあった決定をするためのプロセスとして重視されるようになっているのがシェアードデシジョンメーキング(Shared Decision Making/共同意思決定)です。シェアードデシジョンメーキングは「医療従事者と患者さんが協力して、患者さんにとって重要なことや患者さんの懸念、希望、目標、価値観などの情報に基づいて、医療上の意思決定を行うコミュニケーションのプロセス」と定義されています※1。
●パターナリズム/インフォームドコンセントとの違い
医療において、治療方針の決定方法は、①患者さんにとって最もよいと思われる治療方針を医療従事者が決定するパターナリズム(父権主義)、
②医療従事者が患者さんに十分な医学情報を提示し、患者さんが治療方針を決定するインフォームド・コンセント、
③医療従事者と患者さんが協力して治療方針を決定するシェアードデシジョンメーキング ― の3つに大別されます※2。
パターナリズムとインフォームドコンセントでは、医療従事者から患者さんへ一方向に、エビデンスに基づく医学情報が提供されます。これに対して、シェアードデシジョンメーキングでは、双方向に情報が伝えられ、患者さんから医療従事者に対しても、患者さんの希望や価値観などの情報が伝えられます。
治療方針の決定は、パターナリズムでは医療従事者が、インフォームドコンセントでは患者さんがしますが、シェアードデシジョンメーキングでは医療従事者と患者さんが繰り返し話し合い、協力して行います。シェアードデシジョンメーキングがインフォームドコンセントと異なるのは、ひとつは、治療方針を決定するにあたって一人ひとりの患者さんが主体的に関わる点であり、もうひとつは、エビデンスに基づく医学情報だけでなく、患者さんの希望や価値観なども含めて考える点にあります。
それによって、一人ひとりの患者さんにあった治療方針を決定することを目指します。
●乳がん患者さんにとって
乳がんの患者さんは、治療方法(手術、ホルモン療法、化学療法など)をどうするか、遺伝子検査をするかどうか、家族や職場の人にがんであることを伝えるかどうかなど、さまざまに悩むことがありますが、一人ひとりの患者さんによってよい選択は異なります。医療従事者と患者さんが繰り返し話し合い、患者さんの希望や価値観も十分に考慮して、どのような治療をするかを決めるプロセスこそがシェアードデシジョンメーキングです。化学療法を使用するかどうかの選択も難しい問題です。化学療法は副作用のリスクを伴います。最近では、一人ひとりの患者さんについて化学療法の効果を予測することを助ける多遺伝子検査が活用されています。
*参考情報:
※1 National Quality Forum. National Quality Partners Playbook. Shared Decision Making in Healthcare.2018
※2 Charles C, Gafni A, Whelan T. Decision-making in the physician-patient encounter: revisiting the shared treatment decision-making model. Social Sci & Med 49:651-661, 1999